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2015年11月10日

路上の生意気 糟谷浩平

 天空から超高速で落ちてきた少年はなんか急にムカついている。
「まじぶっ殺すわ〜」
 と言っている。物騒である。世の中物騒になった。ちょっとそれを証明するのは無理だけれども、目の前でこんなことを言う奴がいる俺の身になってくれれば納得も納得、すごい納得するだろう。
「その気持ちはわからんでもないけどなぁ」
 と小声で言って立ち去ろうとした俺の袖を掴む少年は、何か話した気である。俺はあんまり乗り気じゃない。

「何?」
「僕は思うんだよ。ここに着陸しといて開口一番殺すとか言っといて、君に話しかけるのはどうかと」
「ああ、つまり、俺を殺そうとしてたのか?」
「いやそういうことではないけど、殺すってのも脅しだからね」
「……じゃ、コンビニ行くんで」
「僕も行こう」
 と言って付いて来る迷惑な少年に何か奢ることになるのか。心配だ。財布の中に千円しか入ってない。坂を登ってオフィス街の交差点に、新しくできたコンビニがある。空の高い、冬の寒い真昼間から繁盛している。
「唐揚げ買って一個くれよ」
「生意気な。金が無いんだ俺は」
「嘘をつけ、唐揚げくらい買えるだろう」
 お茶とおにぎり二個と唐揚げを買ったら四百円くらい返ってきた。
「一個だけか……」
「一個だけだろ普通」
 それでも少年は感謝の言葉も言わずに一口で食べて不敵な笑みを浮かべた。
「やはりセブンイレブンか……」
 まあその説は極めて有力だろうな、と俺はおにぎりと唐揚げを交互に食べる。高校生の頃の朝を思い出す。また中学生の頃の放課後を思い出す。
「このような悲しい昼飯とは、どんだけ貧乏なんだよ、働けよ」
 生意気なことを平気で言ってくる。
「人の事を言えたもんじゃないだろう。俺の場合、金は無いようであるし、あるようで無い」
「唐揚げ一個程度しか奢れないくらいはあるだろうけどさ」
「なんつー尊大な態度だ。びっくりするわ」
「さて帰るか。飽きたし」
「何しに来たんだよ……」
「ちょっとね、まあ…、何だろう、君はこれから何すんの?」
「あー、俺は、勉強でもするか、あるいは人生勉強か」
「そうか、それはもう、ガンガンやってくれ」
 少年は歩いて坂を下りてどっか行った。俺は一体何をするために腹ごしらえしたのかを忘れかけていたが、思い出そうと考えながら歩き始めた。

タグ :小説

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Posted by 金沢大学文芸部 at 14:32│Comments(0)作品紹介
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