2018年06月13日
三題噺2 〈黄色、雷、ホットドッグ〉
闇夜をきりさくような光と、大地を揺らす轟音。ビリビリと部屋まで揺らす雷に、思わず耳を塞ぎ、その場に縮こまった。
雷は昔から嫌いだ。体の芯から揺らすような音も、視界を奪う強烈な光も、何もかも。
ドオンッとまた、近場に雷が落ちた音がする。早く、早く止んでくれ。そう願うのに、雨足も風の音もどんどん強く、大きくなるばかり。
いつになったら終わるのだろう。たびたび鳴る雷におびえながら、かるく絶望を覚えたその時だった。ピンポーン、と軽やかに、しかし今の状態には合わないインターホンの音が響いた。
誰か来たからには出なければいけない。しかし今はそんな状態ではない。どうすべきか悩んでいると、またピンポーンとインターホンが鳴った。
仕方なく、ふるえる手足に力を込めて立ち上がり玄関へと向かった。
「はーい……」
雷は昔から嫌いだ。体の芯から揺らすような音も、視界を奪う強烈な光も、何もかも。
ドオンッとまた、近場に雷が落ちた音がする。早く、早く止んでくれ。そう願うのに、雨足も風の音もどんどん強く、大きくなるばかり。
いつになったら終わるのだろう。たびたび鳴る雷におびえながら、かるく絶望を覚えたその時だった。ピンポーン、と軽やかに、しかし今の状態には合わないインターホンの音が響いた。
誰か来たからには出なければいけない。しかし今はそんな状態ではない。どうすべきか悩んでいると、またピンポーンとインターホンが鳴った。
仕方なく、ふるえる手足に力を込めて立ち上がり玄関へと向かった。
「はーい……」
恐る恐る玄関のドアを開けると、そこには黄色い傘を持った幼なじみが立っていた。
「よう。元気?」
「元気に見える?」
「いや、全然。むしろ死にそうな顔をしてるな」
目の前の男は私をからかうようにへらりと笑った。
「とりあえず、中に入れてくれ。ここ寒いし、ホットドッグ買ってきたから」
「別にいらないし、用がないなら……」
帰ってくれ、と続けるつもりだった。幼なじみの背中に見える空にカッと白い光が走り、少し遅れてまた轟音が鳴り響く。体がこわばり、ビクリと肩がふるえた。
幼なじみと私の間に気まずい沈黙が落ちる。
「まぁ、ホットドッグ食べようぜ」
幼なじみが私の手を引いて家の中に入る。抵抗する気力を失くした私は、手を引かれるまま、幼なじみの後を追った。
「はい、ホットドッグ。それとクマのぬいぐるみ」
部屋に入るなり、机の前に私を座らせて、ホットドッグと子供くらいの大きさもある大きな黄色のクマのぬいぐるみを渡してきた。そのまま無遠慮に私の隣に座り、勝手にテレビをつける。
「なんでテレビつけるの?」
「だって雷なってんじゃん」
返答にしてはおかしい気がしたが、幼なじみは気にした様子もなく、チャンネルをくるくると変えていく。幸いと言っていいのか、テレビはちゃんと映るようだ。
「何しに来たの?」
何気なくきいてみたが、彼はチャンネルを回しているだけ。
「ねぇ、」
「雷が、」
もう一度きこうと思った瞬間、声が重なった。
「雷が鳴ってたから。そんだけ」
「……そう」
幼なじみはあるバラエティー番組でチャンネルを止めた。
「ホットドッグ食べようぜ」
手に持ったホットドッグはまだ温かかった。
それから雷が鳴る日は幼なじみがホットドッグを買ってやってくるようになった。そして、今日もまた。
「おーい、ホットドッグ食べようぜ」
〈了〉
「よう。元気?」
「元気に見える?」
「いや、全然。むしろ死にそうな顔をしてるな」
目の前の男は私をからかうようにへらりと笑った。
「とりあえず、中に入れてくれ。ここ寒いし、ホットドッグ買ってきたから」
「別にいらないし、用がないなら……」
帰ってくれ、と続けるつもりだった。幼なじみの背中に見える空にカッと白い光が走り、少し遅れてまた轟音が鳴り響く。体がこわばり、ビクリと肩がふるえた。
幼なじみと私の間に気まずい沈黙が落ちる。
「まぁ、ホットドッグ食べようぜ」
幼なじみが私の手を引いて家の中に入る。抵抗する気力を失くした私は、手を引かれるまま、幼なじみの後を追った。
「はい、ホットドッグ。それとクマのぬいぐるみ」
部屋に入るなり、机の前に私を座らせて、ホットドッグと子供くらいの大きさもある大きな黄色のクマのぬいぐるみを渡してきた。そのまま無遠慮に私の隣に座り、勝手にテレビをつける。
「なんでテレビつけるの?」
「だって雷なってんじゃん」
返答にしてはおかしい気がしたが、幼なじみは気にした様子もなく、チャンネルをくるくると変えていく。幸いと言っていいのか、テレビはちゃんと映るようだ。
「何しに来たの?」
何気なくきいてみたが、彼はチャンネルを回しているだけ。
「ねぇ、」
「雷が、」
もう一度きこうと思った瞬間、声が重なった。
「雷が鳴ってたから。そんだけ」
「……そう」
幼なじみはあるバラエティー番組でチャンネルを止めた。
「ホットドッグ食べようぜ」
手に持ったホットドッグはまだ温かかった。
それから雷が鳴る日は幼なじみがホットドッグを買ってやってくるようになった。そして、今日もまた。
「おーい、ホットドッグ食べようぜ」
〈了〉
Posted by 金沢大学文芸部 at 12:00│Comments(0)
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