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2018年06月13日

三題噺1 お題〈黄色、雷、ホットドッグ〉

 インスタント シスターズ

 ホットドッグというものには概して2つのソースによって成り立つ。それは皆さんも御存じの通り、ケチャップとマスタードである。という訳で、中学生の私が編み出したダンスユニット名は「Hot Dogs」。相方の好きな色は赤だと信じ、「けちゃみ」と命名。私? よく聞いてくれた。私は「マスター」、イメージカラーは黄色。声と振り付けの大きさは誰にも負けない。ううん、私とけちゃみなら、どんなステージだって一番になれる。
「ね、けちゃみ!」
「明美だって言ってるでしょ。まな」
 教室の片隅で私の話をうんざりした目で見てくる明美……じゃなかった、けちゃみ。
「アンタ、中学生のくせに高校生と組むとか正気?」

 そう、ここは中高一貫校の高等部の教室。放課後を狙って話に来たのはこれで……何回目だったかな? まぁ、私はあの時雷に打たれたんだよ。
 両手を合わせ、目を瞑って必死に言いつのった。
「お願い! 明美ちゃんとコンビじゃないと嫌なの!」
「なんでよ。私以外にもアンタと組みたいやついるんじゃないの?」
「だって……」
 明美ちゃんの黒くて真っ直ぐな髪が夕日に揺れる。私の中に大切に残っている、彼女とのファーストコンタクト。それは去年の文化祭のこと。しっとりとしたバラードと共に現れた白いワンピースの彼女はステージに舞っていた。
「明美ちゃんのダンス、好きなの!」
 バレエを10年続けている彼女のしなやかな動き。指先まで露の重みでしなる草のように柔らかく、繊細で優美。それはまるで。
「天使なの! 明美ちゃんの口調は厳しいけど、誰よりも優しいってダンスを見て、思ったの‼」
 半ば叫ぶように放った言葉に私も明美ちゃんも目を丸くした。
「あ……」
 どうしよう。私なんて返せば……。
 その時、鈴の音がした。は、と気を取り戻すと、明美ちゃんの肩は揺れている。不安になって顔を見ると、明美ちゃんは口を開けて笑っていた。
「あははっ、天使って……恥ずかしいよっ、まな!」
 また、脳天に雷が落ちる。目を丸くしたままの私を見て、さらに明美ちゃんは身をのけ反らせてお腹を抱えた。
「あーあ、こんなに笑ったの、久し振り」
 感慨深く明美ちゃんは言うと、私の目を見て笑った。さっきとは違う挑戦的なそれに、心臓が走り出す。
「まな。アンタの賭けに付き合ってあげる」
 差し出された白い手はシルクのようだ。迷わず、私はその手を取った。
「ありがとう! けちゃみ」
「明美だよ。マスター」

  〈了〉
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Posted by 金沢大学文芸部 at 12:00│Comments(0)作品紹介
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